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大分家庭裁判所 昭和43年(家)763号 審判 1969年2月21日

申立人 北村百合子(仮名)

主文

申立人の氏「北村」を「宮原」に変更することを許可する。

理由

申立人は主文同旨の審判を求め、申立理由の要旨として申立人は昭和四三年五月二七日夫宮原秀夫と離婚の調停が成立し、婚姻前の氏「北村」に復氏することとなつた。しかし申立人は昭和一九年七月一四日婚姻以来「宮原」の氏を称して社会生活を営み特に一三年前から公認各種学校○○編物学院を経営し、院長を勤め、更に○○編物検定協会○○県支部長NAC(編物教育団体)○○県総支部長等の各種役職にも就いて公私共「宮原」の氏を使用して活動し、その信用を確立して来たものである。従つてこの為「北村」の氏を称しなければならなくなることは申立人の社会生活上多くの支障を来たし、ひいては学校経営をも困難ならしめるおそれもあるので、一旦復氏した申立人の氏を長年使用して来た婚姻中の氏に改氏したく本件申立に及ぶというのである。

本件及び申立人及び宮原秀夫間の当庁昭和四三年(家イ)第一三〇号離婚等調停事件記録各添附の申立人及び宮原秀夫の各戸籍の謄本、大阪家庭裁判所堺支部調査官植田舜二の宮原隆、同修に対する調査の結果報告書並びに当裁判所の申立人に対する審問の結果、当庁調査官佐藤敏一の調査の結果を各総合すると、上記申立理由のとおりの事実が認められ、更に申立人と宮原秀夫間には長男真一(二三歳)、二男隆幸(一九歳)の子があり、何れも申立人において養育しているものであるが、二人の子も共同生活をする母が同じ氏を称することを強く望み、また宮原秀夫の親族も申立人が「宮原」の氏を称し続けることを希望していること、申立人は離婚についていわゆる無責の当事者であつたようで、申立人の不貞、あるいは犯罪等夫の氏を恥ずかしめる行為が離婚の原因となつているものではないことが認められる。

以上のような事実に徴すると、申立人は婚姻以来二四年間の長きにわたつて戸籍上もまた実生活のうえにおいても「宮原」の氏を称して来たもので、この氏を離婚の結果失うに至ることは婚姻による改氏の当事者に不当な不利益を強いるものといわなければならない。民法が離婚の効果として婚姻に際し改氏した当事者の当然の復氏を規定していることが立法の不備であつて諸外国の立法例の如く婚氏を保持せしめ、あるいは本人の自由な選択を許すなど何れ改正されなければならないものであるが当面の問題としては一応民法に基き復氏のうえ戸籍法第一〇七条による改氏の理由に該当するか否かを判断すべきである。この点につき、かかる改氏を許すことは離婚の公示を曖昧にするとの反対論もあるが、それでは婚姻に際し改氏しなかつた当事者の離婚の公示はどうなるのかともいわれるのであつて離婚の公示としては戸籍に離婚の記載がなされることをもつて充分としなければならない筋合である。

すると申立人が長年使用して来た「宮原」の氏に改氏することは同条にいう改氏についての止むを得ない事由にあたることが明らかであるから、本件申立は正当と認めてこれを認容し主文のとおり審判する。

(家事審判官 土井博子)

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